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「何故、邪魔をなさるのです!」
自分を妨げている薬売りに対し、責めるようにお蝶は問い掛ける。
そんなお蝶とは対照的に、あくまで落ち着いた薬売りは、もがくお蝶を静かに見遣る。
「…出てはいけない。ここにいれば、安全だ」
ヒュン、と。
薬売りの耳に、風を切る音が飛び込んでくる。
「!」
薬売りは咄嗟にお蝶を引き寄せ自らの背に庇うようにし、薬箱の上段の引き出しから一振りの短剣を取り出して、鞘から抜かぬまま上体を捻った勢いで背後に突き出した。
ぶつかりあう、金属音。
次の瞬間、紅い獅子の頭が付いた豪華な装飾の短剣は、何者かの手によって振り下ろされた長い煙管をしっかりと受け止めていた。
「怪しい奴…貴様、何者…!!」
ぎりぎりと競り合う、煙管と鞘に収まったままの短剣。
薬売りと対峙した謎の男のその声は、先程牢の中に響いた謎の声と同じものであった。
二房に分けて緩く結われた白く長い髪に、ずるりと長い着物とその袴。
何よりその姿を異様に見せる、狐の面。
――人間では、ない。
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