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店の奥から階段を下る音がさせながら「そげな大きい声出さんとも聞こえるっちゅうに!」と健介よりも低い声がどんどん近づいてきていた。
「おお!祐太くん!今日はどんな具合だ?」と健介よりも大きな声で祐太に言った。
祐太は苦笑いをしながら「おじさん、こんにちは。今日はシカをしとめたんです」と言った。
田村の親父「皮と肉はどんな感じなもんだ?」
祐太「皮は良い感じになっとりますが、これから売れるように家へ帰ったら手入れします。手入れが終わりましたら持ってきます。肉は小振りですが、まだ大きい方です。うちの冷凍庫に入らない分をまた田村のおじさんにさばいてもらおうと思いまして、持ってきました」
田村の親父「分かった。肉の量はどれくらいなもんだ?」
祐太「こんくらいになります」と田村の親父さんに祐太が持っていた大きな麻袋を渡した。
田村の親父「こんなに良いんか?ちゃんと自分の分は持ったんか?」とすこし心配するような声で言った。
祐太「それなら大丈夫です。第一にあんまし肉は食べんので」
田村の親父「そうか・・・なら、良いけど・・・売り上げはいつもの日に取りに来てくれ」
祐太「助かります。それじゃよろしくお願い致します」
と言って店を出ていった。
健介「親父・・・祐太・・・大人になったんだな」と今まで静かにしていた健介が言った。
田村の親父「あぁ・・・もぅ、猟に出て1年以上、経つからな・・・まだ、お前ら二人が学生だった頃が懐かしいな・・・」と言って少しため息をついた。
田村の親父「年はとりたくないね・・・まったく・・・」と祐太から受け取ったものを持って店の奥に行きながら言った。
そんな後ろ姿を見ながら健介は「あの頃に戻りてぇもんだな・・・」と誰もいない店の中で言った。
外は少し雪が降り始めていた。
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