5人が本棚に入れています
本棚に追加
おろおろと立ち尽くす俺を見てか、香月がぶっと吹き出した。
「くくく……やぁーっぱ、お前はただの阿呆だな」
笑いをこらえつつ言う香月にカチンとなり、“なんだと”、と言い返したくとも、目の前で睨む翼と、肩を掴んでいる颯太のせいでそれは叶わなかった。
────**
「おバカな奏ちゃんにもう一度言いまーす。ケンカはしないこと。もしケガしたらすぐに話すことー」
間延びしたような言い方で話す翼に、俺も小声だが「はい」と返す。
「よろしい」と、笑う翼の背には俺のリュックが背負われている。
保健室を出たときに奪われたのだ。
ケガ人にものは持たせられないと言う翼に、百歩譲って俺が持たないとしてもここは颯太の役目だろうと言う俺。
結局、根負けしたのは俺の方だった。
そんな俺らの後ろから苦笑を浮かべた颯太がついてきている。
「あ、そういえば! 奏さ、真中【まなか】さんフったんだって?」
「まなか……?」
「あれ? 違うの?」
まなか……って誰だ?
本当に分からないというのが顔にでていたのか、翼も不思議そうに人差し指をあごに当て、首を傾げた。
「ほら、うちのクラスの真中由貴【ゆき】さん。今日の朝休みとかお昼のときとかも泣きながら友達とかに話してたよ? しかも真中さん、部活とか頑張ってて、三年にも結構気に入られてたから、すごい噂になってたよ?」
真中由貴、か。
やっと思い出した。
確か、昨日の放課後、二人を待ってるときに話しかけてきたヤツだったな。
で、話したこともないヤツだったのに、いきなり「好きです! 付き合ってください!」と言われた。
んでもって、俺にしては丁重にお断りしたつもりだったんだけど……どうやらメンドくさいファン様が先輩におられたようで。
「へー。お前、あの“真中”にまで告られてたのか……」
「そんなに有名だったのか……?」
俺は昨日会うまで知らなかった、と伝えれば、二人はかなり驚愕したようで、目を見開いてこっちを見てくる。
最初のコメントを投稿しよう!