親友

12/22
前へ
/24ページ
次へ
「お前、真中知らねえの! 陸上部部長にしてウチの学校の期待の星。八月のインターハイじゃあ、ハードルで学校初の七位入賞で表彰されてたじゃねえか!」 知らない。 熱弁する颯太を見ながら、俺の中には欠片も記憶がない。 というか、八月の大会なら表彰されたのは九月始めの始業式。 今は十月のため、そんな昔のこと覚えてるわけがない。 「そっか……奏だもんね。興味ないものはとことん頭に入らないから……」 呆れたように言う翼に、俺はまた何も言えなくなる。 まったくその通りだからだ。 おかげで、かれこれ半年も一緒にいるはずのクラスメートも颯太以外はうろ覚え──というか分からない。 「ま、いいや。で? フったの?」 「フるもなにも……俺は真中を知らないし、それに……俺のこと好きとか言えるヤツが信じらんねえ……」 俺の言葉に二人が固まるのが見えた。 ──? 俺、今、変なこと言ったか? ただぼうっと反応のおかしい二人を眺めていたら、いきなり、二人の表情がいきなり変化する。 一瞬、悲痛とも取れる表情になったかと思ったら、すぐに笑顔となった。 「なに言ってんだよ! オレは奏が大好きだぞ!」 「わたしも! 奏だぁーい好きッ!」 突然、二人がガバッと抱きついてきたため、体が後ろにそられ、足と背中に痛みが走る。 それでも、二人から言われた嫌いな“大好き”という言葉に、自然と笑顔になった。 それを隠したくて「やめろよ」と言っても二人は離れることをしなかった。 ────** ふと──足が止まった。 それは自分の意志がどうこうでなく、ただピタリと身体が動かなくなったのだ。 二人と別れ、無意識に、それこそなにも考えずにぼうっと歩いていた足が突然止まった。 見なくてもわかる。 家に着いたのだと。 「相変わらず女々しいヤツ……」 もちろんそれは俺のことで。 無意識とはいえ、自宅が目の前になった途端、律儀にも歩みは止まったのだ。  
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加