親友

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「ったく……別になんもねえだろ……」 ズボンのポケットから鍵を取り出し、ドアへと差し込む。 半回転させ、開錠音が聞こえてから鍵を引き抜き、ノブへと手をかけた。 軽い音ともに開かれたドア。 誰の靴も置かれていない玄関は、この家が留守なことを表していた。 女々しいと思いつつも、ほっと息をつく。 そのまま靴を揃え、靴箱の下にあるスペースへと押し込む。 それから、玄関の真横にある階段を上がり、自分の部屋へと入った。 ドサッと勢いよくベッドへ崩れ落ち、背負っていたリュックを机の方へと投げる。 ベッドに勉強机、クローゼットと本棚だけの六畳一間。 それが俺に与えられた部屋。 一番、今までの人生を過ごした部屋。 『ただーいまー!』 聞こえてきた子供特有の高い声に、びくっと肩が震えた。 『こら、祐一! お母さんを置いてかないの!』 後を追うように聞こえてくる女性の声。 優しく叱責する声を聞きたくなくてベッドに横になったまま、頭に枕を乗せて耳をふさいだ。 どたどたと走る音は、弟である祐一がたてているのだろう。 聞きたくなくとも、母親の楽しそうな声まで聞こえてくる。 条件反射で耳をふさぐ自分が情けなかった。 別にどうってことない日常会話だと言うのに、いやはや十年にも及ぶ習慣とは恐ろしい。 うずめていたベッドから頭を上げ、後頭部に乗せていた枕も元あった位置へと戻し、ズボンの尻ポケットへと手を突っ込んだ。 すぐに触れた固いモノを取り出す。 閉じられていた携帯はチカッチカッと点滅していた。 「メール……?」 すぐに親指で押し上げ、メールを開けば“颯太”の二文字が映し出される。 カチカチと数回押せば、内容が開く。 《土曜って空いてるか? 空いてたらちょっと頼みたいことがあってな。至急返事が欲しい》 文末には汗の絵文字が四つもついていて、そんなに焦ることかと笑えてくる。 ──そんなに急いでいるんだ、電話にしてやろう。 思い立ったら即行動。というよりも迷う意味もないので、電話帳から“颯太”の名前を探し出し、通話ボタンを押した。  
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