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『おう、奏。なら今日暇なんだな?』
「まあ、そうなるな」
また携帯(元々颯太の)が颯太の手に戻ったようで、また話し手が変わる。
『楓花と母さんが久しぶりにお前に会いたいんだと。これから来れるか?』
「今から?」
部屋にある時計へと視線を移せば、まだ六時半。
……夕飯の時間で迷惑じゃないのか?
『じゃ、ついでに土曜の話もしよう。待ってるからな? ケガしてんだ。ゆっくり来い』
ブチ、と切られる電話。
ならケガ人出歩かせんなよ。
その言葉を飲み込み、ふと考えてみる。
前に颯太の家に行ったのは夏休み中だ。それ以来楓花や颯太たちのお母さんには会っていない。
久しぶりに会いに行くか。
思い立ったら吉日。
ほとんど入っていないリュックを背負い、部屋から飛び出した。
────**
「よっ、お疲れー」
ある一軒家の前、笑顔の颯太が立っていた。
もしかしなくても、ここは颯太の家であり、颯太の家族が住んでいる。
「二カ月ぶりか? 楓花と母さんが中で待ってんだ」
「厳密にいや一カ月と八日。31日も泊まったろ?」
ドアを開け、中へと行く颯太に続けば、玄関の、靴をぬいで上がったとこに、笑顔の楓花が立っていた。
「奏ちゃん、久しぶり!」
「久しぶり……また伸びたか?」
玄関の段差のため、今は楓花の方がでかい。
颯太似と言うよりも、お母さん似の楓花は翼と違って可愛らしい顔立ちをしている。
綺麗な黒髪はショート。
横に並んでほしくないとも思うが、どこか兄心にも似た感情を抱いている。
「ねえねえ奏ちゃん。また勉強教えてー? 青稜【せいりょう】受けたいんだ!」
「颯太でもよくないか? バカでも一応は受かってんだし……」
両手を合わせ、「お願い!」と頼み込んでくる楓花。
多分半笑いとなっているであろう俺は、横にいる颯太の方へと視線を向けた。
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