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「かーなーっ!」
昼休みも中盤。
昼飯を食べ終えた生徒で溢れかえる廊下に、そんな声が響きわたった。
他人のふり……ができたら嬉しいのだけど、いかんせん大声で叫ばれたのは俺の名。
しかも、かなり悪目立ちする方なので、俺の名前や顔を知られてるわけで……。
周りにいる奴らからは奇異ともとれる視線を向けられている。
仕方なく、ゆっくりと後ろへ振り向けば、見知った顔が二つ、笑顔でそこにあった。
「……なんだよ。ノロケなら他んトコでしろ。俺は今忙しいんだよ」
眉間にシワを寄せ、さも不機嫌だ、と表情を歪める。
それでも二人は笑顔を崩さずに、俺の方へと寄ってきた。
俺も、半分はただの条件反射というか……元々アレだけで二人をどうこうしようとは考えていなかった。
「で?」
まあ、忙しいのは本当のこと。
要件だけさっさと聞いて、早くこの場を離れたいものだ。
すると二人のうち男の方──伊藤颯太【そうた】は口を開き、
「おう! 今度の日曜って空いてるか?」
「日曜……? バイトはないが……」
今週はあと金曜と土曜の2日だけ。
ん? 今週の日曜って──
「なら翼ちゃんの誕生日会に強制参加でーす!」
そう、もう片方の人物──志村翼は楽しそうに告げた。
もちろん颯太も笑顔で見てくる。
多分、俺の表情【かお】は、変なものでも見たような感じだったと思う。
伊藤颯太と志村翼。
中学時代からの付き合いで、昔からよく三人でつるんで遊んでいた。
そして中学三年の春。
この二人はめでたく結ばれた(彼氏彼女という意味で)。
しかも颯太はスポーツ万能、勉強は……目をつぶったとしても、短めの黒髪に優しげな目元。男の俺でもいい男だと思うし、ひょろひょろな俺とは違う、がっしりとした体格には憧れている。
そして翼は成績は学年次席、スポーツもいとも簡単にこなす。長い黒髪はストレートで、女子にしては高めの身長だが、スタイルがいいため気にならない。顔もそんじょそこらの芸能人やモデルなんかよりも整っていて、学年一……いや学校一の美人と呼び声が高い。
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