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だから呼び出されれば、二つ返事で了承、そしてそのままついていく。
「聞いてんのか!」
「なに──」
を?まで言うことはできなかった。
鈍い音とともに、頭が大きく揺らぐ。
一瞬遅れて熱を持ち始める右頬に、俺は殴られたのだと理解した。
思いの外痛みはなく、ただ右頬が熱い。
睨むこともせず、もう一度金髪へと視線を戻せば、怒りからか顔が真っ赤になっていた。
「お前に! お前なんかにオレの“ゆき”はッ!」
は? “ゆき”?
突然出された人名に、唖然となっていた俺は、振り上げられた拳に気づくことができなかった。
“誰?”の問いを尋ねる前に強く腹を殴打され、口からはこもったような空気が漏れただけだった。
だけど、その“ゆき”という名のおかげか、急速に俺の中の何かが冷めていく。
つまり、俺は誰とも知らないヤツのせいで殴られてるのか。
ふと視界の端に、こちらへと向かってくる茶髪二人が入る。
これがご都合主義のマンガの主人公なら、一瞬で片付けられるのに。
拳を目の前の金髪の頬に叩き込みながら、思考を明後日の方向へと飛ばす。
──現実はそう甘くない。
背中への衝撃を感じながら、ただ漠然とそう思った。
────**
「ちくしょ……いってえな、こりゃ……」
痛みに軋む体に鞭打ちながら、壁づたいに廊下を進む。
最初になんの防御もなく受けた二発と、茶髪二人にやられた背中と右足がかなりキツい。
時折漏れる荒い呼吸音に、自分の“弱さ”を再認識し、勝手にため息までもが出てしまう。
始業のベルの鳴り終えた廊下は、不気味なまでに静まり返り、無様な自分の姿が見られないという安堵と、“世界中に俺一人”のような押し寄せてくる孤独を感じた。
亀のような鈍足の自分に軽く苛立ちを覚えつつも、どうにか目的地まで到着することができた。
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