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保健室。
高一のころから世話になっているせいか、ここ勤務の保険医とはすでに顔馴染み。
本来なら停学ものであるが、内情をよく知るこの人のおかげで上手く誤魔化してもらい、こうやって普通に訪れることができるのだ。
「はーい、サボりは受け付けてねーぞー」
なんともやる気のない声が、ドアを開けたと同時に聞こえてきた。
その言葉を聞く限り、こちらを確認せずにドアの開閉音に反応した様子。
「香月【こうづき】せんせー、お願いしまーす」
俺もまた覇気の全く感じられない声で、中へと告げる。
そしてすぐに、マグカップ片手にこちらを覗き込む、香月克久その人の顔が目に入った。
俺を視界に入れると、呆れたような顔へと変わる。
「お前……今年度になって何度目だ?」
「さあ? 強いて言えるとしたら、三日ぶりですね」
俺の言葉に、香月は大きなため息を吐いてから、中へと招き入れた。
「ったく……誤魔化すのも結構面倒なんだぞ?」
「ははは。それでもせんせーならやってくれるでしょう?」
これもいつもの会話。
香月も理由は分かっているようで、これ以上の追求はしてこなかった。
どうやら珈琲の入っていたマグカップを机に置き、消毒液などを準備していく。
俺はそのまま奥のパイプベッドに腰をおろし、ぼけっとその様子を眺めていた。
「おーおー。今日は一段とひでえな」
「ぼうっとしてたらやられた。容赦なく。しかも何のガードもしてないときに」
うわ、と顔を歪め、「ケンカ中にぼうっとするのはただのバカだろ」と、心底呆れたように言った。
何も言い返すことができず、無遠慮に唇へと押し当てられる消毒液の染み込んだ脱脂綿に小さく「いてっ」と漏らした。
「あーあ。お前も相当なアホだよな」
「いっ……は? なに?」
バシンッと背中に湿布を叩きつけながら告げられる。
湿布を貼ると同時に思い切り蹴られたところを叩かれたため、身体はビクッと跳ね、聞くどころではなかった。
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