運命の二人

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彼女はため息をつくと、すっと手を前に差し出した。 そのとき不思議なことが起きた。 風もないのに、銀杏の木から落ちた金色の葉っぱが、ひらひらと彼女の手のひらに着地した。 あらかじめ、そこに落ちることが決まっていたみたいに。 彼女は葉っぱをしおりにして本を閉じ、立ち上がった。 引き止めないと、どこかに行ってしまいそうだった。 俺が口を開きかけたとき、講義の開始を告げる鐘が鳴った。 あせる俺に、彼女は静かに言った。 「泉谷教授の講義なら、今日は休講だから」 わからないことだらけだった。 彼女が怒っている理由も、なぜ俺が教授の講義を取っていることを知っているのかも。 俺はその場につったったまま、彼女の後ろ姿を見送った。 ラズベリー色のコートが小さくなるまで。 それが、彼女と俺の初めての出会い。 .
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