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あの日、俺は近くで事故があったことを知った。
歩道に車が突っ込んで人が一人はねられたって聞かされた。
誰に聞かされたかは憶えていない。
正直それどころじゃなかった。
りつが目の前で……消えた。
そのことだけが頭の中で反響する雑音の様に俺の思考を妨げる。
どうして?
わからない、答えなんて何処にもない。
俺は…………りつのいない世界でどうしたらいい?
もう、疲れてしまった。
考えることに、問い掛けることに、自問自答することに。
りつはもういない。
それを認めるのが怖くて、心閉ざそうとしたけれど、閉ざすことも出来なくて。
そして俺は一年間抜け殻のように過ごした。
誰かと話して笑いながら、心は凍っていた。
時間は何も癒してくれなかった。
ただ無情を、思い知らされただけだった。
季節は、夏になり、秋になり、冬が来た。
そして、あの日から一年経った……春が来る。
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