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駿は目を開けて、声のする方を見た。
そこには、桜の舞散る中にあの日と同じ姿のりつが立っていた。
はにかんだその笑顔が、駿が望んだ光景が、目の前にあった。
駿は慌てて立ち上がりりつへと呼びかける。
「何やってんの……ってそれはこっちの台詞だ!!」
突然の怒鳴り声に少しだけりつは顔をしかめた。
駿が怒るとむくれるその癖がとても可愛くて思わず抱きしめたくなる。
駿は一歩一歩確かめるようにりつへと近づいていく。
一歩近づく度に、りつの顔には笑みが戻っていく。
そして、駿はりつの目の前に。
りつを抱きしめた。
りつの匂い、りつの身体の軟らかさ、りつの細い身体、何もかもが愛しくて、何もかもが懐かしい。
駿の目から涙が零れた。
雫は止めどなく溢れ、りつの肩を濡らしていく。
「駿は泣き虫だなぁ」
そう言ったりつの声も震えていた。
「どうして……どうしてお前がいなくならなきゃいけないんだ…………」
駿のこの一年心に溜め込んだ想いが噴き出して言葉となる。
「どうして他の誰かじゃないんだ!? どうしてあの日だったんだよ!?」
りつは黙って抱きしめられたまま駿の独白を聞いている。
「どうして……いなくなっちゃったんだよ、りつぅ、俺はどうすんだよ……悲しくて、哀しくて、何もかもがどうでもよくて、なぁ、俺どうしたらいい?」
駿は抱きしめていた手を肩に置きりつの顔が見えるようにした。
目を見て、きちんと話すこと。
これは駿とりつの大切な話をするときの決まりごと。
「俺は……お前の所に」
「駄目だよっ!!」
りつは駿の言葉を遮った。
「駄目だよ……駿は生きて、私の分まで楽しまなきゃ駄目」
顔を伏せてりつは続ける。
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