Ⅰ,旅心

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 外気の匂いは、一日の中でも時間によってころころと変化する。 と、僕は思った。 例えば早朝。 家が山の梺に在る訳では無いし、少し先にも朝霧等は見当たらない。 だが、独特の「空気」が街中を包み込んでいる。 言葉で表すと上手くは伝わらないが、きりりと冷たい、湿気と土の混じる匂いを含んだ、あの感じ。 お昼過ぎならば、優しい匂いがするだろう。 金持ちの家のように上品にパイの焼ける匂いがする訳では無く、ただ、青む葉の匂いと太陽に暖められた緩やかな風の匂いが、大地や街や植物や僕を撫でるのだ。 ああ、地球はやはり奇跡の星と呼ばれるだけの心地好さをしっかり構えているな、と感心しつつも、僕はポケットをまさぐってライターを掴む。
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