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「もしかして松原さん」
柔らかな日差しと秋風が心地良い新橋のオフィス街の交差点で松原俊明が、信号待ちをしていると、顔に見覚えのある女性が横に並んだ。
「君は…。忍ちゃん」
「もう『ちゃん』って年じゃ無いですよ。お久しぶりです」
松原が以前勤務していた総合商社、丸菱の同期入社の中川忍だった。
忍は、この近くの会社に勤めているらしく、グレーの事務服を着ている。
「君が寿退社をして以来だから、かれこれ二十年ぶりかな」
松原は、時間があると言う忍を誘い近くの喫茶店に入り、懐かしいそうに言う。
「松原さんは、会社を変わられたんですか。奥様は、確か重役のお嬢さんでしたよね」
忍は、松原の襟元の社章を見て尋ねる。
「色々とあってね。離婚した」
松原は、以前、勤めていた丸菱の専務の一人娘と結婚していたが、妻が大学の同級生の男性と駆け落ちをしてしまい、離婚して会社も辞めた。
「私も離婚したんです。もう十年以上前ですが」
忍が小さな声で言う。
「お互いに色々とあったんだね。ここで会ったのも何かの縁だから、連絡先を教えておくよ。今度、食事でもしよう」
松原は、自分の名刺を取り出し、携帯電話の番号を裏に書いて、忍に手渡す。
「私のも教えます」
忍は、ベストのポケットから携帯電話を取り出し、松原の番号をダイヤルして、二回コールをして切る。
松原は、忍の携帯電話の番号をメモリーする。
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