お盆のある日

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じいちゃんに毎年お盆の時期になると言われていた呪文めいたあの言葉が頭の中にぐるりと渦巻く。 《…ちぃ、約束だよ。送り盆の日が過ぎるまでは絶対に仏壇に線香をあげちゃいかん。》 私が少しだけ大人になり、じいちゃんが居なくなった今、私にその言葉をかける人間はもう居ない。 思えばじいちゃんは、幼かった私にお線香を触らせるのが危なかったから、触るなと言っていたのかな? そのお盆の期間は、いつにもましてじいちゃんと一緒に居たし。 じいちゃんは寂しかったのかもしれない。 いや、でもその言葉はじいちゃんが亡くなるまでずっと続いていた。 私の頭は疑問で埋め尽くされる。 じいちゃんは特に頭がおかしかった訳でも、ボケてもいなかった。 幼かった私に、その言葉を繰り返すうち、自然に癖になっていたのかもしれない。
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