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どこにでもある、何の変哲もない喫茶店──
土曜の2時という微妙な時間帯で、客もまばらだ。
私は彼と向かい合わせに座る。
店主はカウンター席の、常連とおぼしきOL風な女性と談話中。
あっちのカップルは二人の世界を築いているし、新聞広げたリーマンは渋い顔でコーヒーを啜る。
中年の女性陣は主婦なのだろうか、くっちゃべっては時折ちょっと下品な笑い声を響かせた。
バイトのウェイトレスは暇を持て余し、カウンターにもたれて佇んでいる。
耳障りではない程度の音量で流れている今時の歌謡曲。
ごくごくありふれた情景。
だが日常は、突然に破綻した。
私は彼が何を言っているのか理解できずに、茫然としたまま、告げられた言葉をオウムのように呟く。
「奥さんがいる……?」
彼は俯いたまま、口をへの字に固くつぐみ、視線を合わせようとはしない。
必死に把握を試みる私をよそに、沈黙に堪えかねたのか、彼が再び口を開いた。
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