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レンジを後にし、二人は自らの車に歩いていく。
そもそもの利用者が少ない為、古い割にそれ程痛んでいない駐車スペース。白線を引いて区切っただけの簡素な物だ。
結局二人以外の車は無く、遠巻きからでも良く視認できる。
ブランドンはより近い位置に止めてある自身の高級SUVの後部ドアを開き、諸々の荷物を放り込んでいく。
それから少し離れた場所にあるピックアップの荷台についた圭司は、両手の荷物を載せると跳ね上げてあったルーフを閉じた。
フロントの方に圭司が戻ると、目を広くカバーするシューティング・グラスから打って変わり、澄んだブルーの目だけを隠す様な丸いサングラスにかけ替えたブランドンが片手を挙げていた。
それに同じく左手を挙げて返し、圭司が運転席に乗り込もうとしたその時、それ程離れていない辺りからけたたましいスキール音が木霊した。
ドアを開けたままにわかに二人は固まり、それが聞こえて来た方向を見ると、続いて聞こえてきたのは短く乾いた破裂音。
断続的に響くそれは、二人にとって飽きる程に聞き慣れた銃声。
しかしそれは、シューティング・レンジでターゲットに向かって放たれている物では無い事が状況から見て取れた。
「オイオイ、どこのバカだ?」
それにも落ち着いて、やや呆れの混じった口調で言うブランドンだが、低くした姿勢でストロング・ハンドはキンバーのグリップを既に握っている。
銃声は止んだが、人通りの極端に少ない辺りの雰囲気はにわかには戻らず、未だ不穏な物に包まれていた。
「判んねぇが、かなり近かったな。早いとこズラかった方が――」
会話距離としてはやや遠い為、大きめの声でそう言おうとした圭司の言葉は、唸る様なエンジン音に遮られた。
明るく賑わう大通りを逸れ、小道を二、三度曲がり進むだけで静寂が支配する空間に、数台の黒塗りの車両が突如として飛び込んでくる。
二人はと言うと、目の前の状況に言葉を失っていた。
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