SUB-MOA

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 青く澄み渡る大空が広がり、その下には巨大な直方体が大海原に浮かんでいる。  ――超大型浮体式構造物、メガ・フロート。  まるでそこだけ海を切り取った様に佇むそれは、次世代の環境、経済、そしてある種のリゾートの特区とする事を孕んだ新都市計画のもと建造された。  様々な規模の工場が建ち並ぶ工業区、陸地の大都市に勝るとも劣らない高層ビルが群を成す経済特区の他、単なる住居だけでなく、それ一つの街として機能する程の一般居住区が存在する。  違和感の無い程度に整然とした、ここが海の上だと感じさせないその一般居住区の街並みを、一台の車が走っていた。  メタリック・ブラックの艶やかなピックアップ・トラック。駆動をモーターとシェアするハイブリッドの静粛さで巡航する。  暫くそのまま走り、速度を落とすと通りに面したガンショップへと入っていく。パーキングに車を停めると、それから降りてきたのは若い男だ。  黒のTシャツに黒のジーンズ、そして上着に薄手の黒いジャケットと全身真っ黒の出で立ち。  清潔感はあるが、毛先は荒く首筋を隠す程に長く伸びた髪。前髪は中央で分かれ、そこから覗く顔は美男とまでは言えなくも整っている。  開け放ったピックアップのドアを指先で押すと、それだけで勢い良く大きな音を立てて閉まる。  その要因は、整った首から上とは打って変わり、黒尽くめの衣服を今にも張り裂きそうに突っ張らせる、傍目から見てもありありと強靭さが伺える男の肉体に他ならない。  身長は170センチメートルに届かない程の大きいとは言えない体格だが、まるでそうは思えない威圧感を振り撒くその肉体の持ち主――坂崎 圭司(さかざき けいじ)――は、広い肩で空気を切りながら車を停めた駐車場を持つ店の中へと入っていった。
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