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僅かの間、微動だにせず居た圭司は、気付いた様にマズルを下ろすとケースにしまい込む。
プラスチックの爪でロックすると、取っ手を大きな手で掴み、軽々カウンターから浮かして降ろし、腕からぶら下げる。
「有難うオッチャン。早速撃ってみるよ」
まっさらな新品であるが、既に代金の支払いと登録は済ませてあり、名実共にこの銃は圭司の物である。
「応。何か問題があったら、早めに持って来いよ」
既に背を向け背後からかかる声に軽い返事を返しながら、圭司は榊銃砲を後にした。
――一般居住区ライフルレンジ。
再びピックアップを転がし圭司が向かったのは、一般居住区内にいくつもあるライフルレンジの内の一つ。
如何な比較的規模の大きい榊銃砲のシューティングレンジと言えども、何百ヤードもの距離が取れる筈も無い。
メガ・フロートのライフルレンジはどれも大海原を臨む様に作られており、中には機関砲の掃射が許可されている場所も存在する。
そんな中このレンジはやや内陸の奥まった場所に設置され、開発の過程で景観も悪くしかも少し離れればその様なレンジがある為、交通の便が良い割に極端に人が少ない。
遠出が必要な程大仰な火器を撃つ事など滅多に無い圭司はそんなこのレンジを気に入り、射撃の際は専らここに通っている。
必要な荷物をピックアップの荷台から降ろしベンチに向かう。その間近付くにつれ、断続的な射撃音が静寂に轟いていた。
一旦適当なベンチを占領した圭司は、その爆音の発信者であるシューターに、一段落つくのを待って話し掛けた。
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