第一話、暗雲せまる

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 姉であるくれはとは対極にいると言ってもいいだろう。元気で明るく可愛らしく右に左にと、よく動き回るのでまず家の中に居ない。 「………はっ! 探しに行かなきゃ…!」  悲嘆の時間は終了とばかりに、くれはの声に慌てて駆け寄ってきたメイドに外出する旨を伝え、急いで外へと飛び出すのだが、そこではたっと動きを止めると、いそいそと戻る。屋敷が少し街から離れた丘にあることを、思わず失念していた。  一度自室に戻り、知恵の杖を手に握ると、とんと軽く石畳の床を叩く。  杖から光が徐々に広がり、クレハの周囲を包んだと思った瞬間――街の外れにその姿が現れた。  瞬間移動を終えたくれはは、きょろきょろと見知った顔を探す。 「いたぁ! ゆづさん…っ」 「あんた………また?」  この響でも屈指の占い師であり、自分の未来以外ならなんでもござれという腕を持つ。その職業ゆえか、本人の性質かは謎だが、妖艶な雰囲気にファンも多い。  濃い茶色の髪を柔らかく束ねた髪の左右に挿されている簪が揺れた。 「……かずはの行きそうな所占って下さい…急用なのです」  もう此処に頼るしかない。両手を組んで、必死さを伝える切羽詰まった様子に、ゆづもふっと苦笑を浮かべる。それから少しだけ待ちなさいと言うと、着物の袖から水晶丸玉を取り出し、ゆっくりと瞳を閉ざした。
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