第一章

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それならば、言わなければいいかと言えば、そうでもない。 隠す事自体は簡単だ。その人の言葉に乗っかってしまえば良い。彼は自分を人間だと思ってないようだから、はぐらかせるはずだ。 しかし、今更気付いてしまった事だが、此所には人間でない者、言い換えると此所の住人でなら対処出来る事や、通常無害のはずが人間にとっては有害な事がないとはいえず、 下手をしたら、既に何らかの病気にかかっているかも知れない。 人間だと打ち明けて、色々と説明を欲しい気持ちもあった。 『どうせ帰るまで隠し通すことは不可能なんだし、ここで打ち明けてしまおう。』 と心に決めた。 「大丈夫ですか?お~い、返事をしてください。」 はっと気が付くと、目の前ではその人が心配そうにこちらを見ていた。 俺の悪い癖だ。一つの事を考えると、周りが見えなくなる。 「あ、すいません、ちょっと考え事をしていたもので…」 その言葉に安堵の表情がうかぶ。どうやら考え込む時間が長かったようだ。 「あ、気がつきましたか。いや、いいですよ。良かった。いくら何をしても反応しないもんですから、具合でも悪いのかと、少し心配しましたが。 さぁ、歩きましょう。」 と言ってその人はまた歩き始めた。 しかし、いっこうに歩こうとしない俺を見て、怪訝な顔をした。 「どうしたのですか?はっ、やはりどこか具合が悪いのですか?」 「いや、そうじゃないんです。 さっきの言葉なんですが。」 .
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