第一章

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「さっきの…というと、ああ、 人間か?と聞いた事ですか、忘れていいですよ。ただの冗談ですから。」 なんて言って笑った。 けど、俺の言葉は止まらない。 「いや、そのことなんですけど……俺、人間です。」 その言葉で、今度はその人の足が止まった。 そしてこちらを振り向いた。 「今…なんて言いましたか?」 「俺は人間です。と言いました。」 ふむ…と言って、その人は考え込んでしまった。 「因みに、貴方はどうしてこの店に入ろうと思ったのですか?」 少し考えたあと、ここで嘘をついてもしょうがない。と思ったので、正直に「好奇心です」と言うと、その人は更に顔を歪め、そうですか…とだけ呟いた。 そのまま思考の奥へと入ってしまったようで、その人は顎に手をあて、いかにも考えてます。ととれるポーズをとっていた。 途端に後悔の念が襲った。 言わない方がよかったのでは? もう少し様子をみておけば… そんな言葉たちが、ぐるぐると頭の中を駆け巡った。 「人間と明かした事にはそれなりの意味があるようですね。」 悩んでいたら、思考が終わったらしく、その人は声をかけてきた。 「どうやら貴方は頭が切れるようですね……この様子だと、打ち明けることで起きるだろう事について大変悩んで発言されたようだ。 勿論、打ち明けるリスクも考慮したはず。 しかし貴方はそのリスクを分かってまで発言した。その意図はさしずめ、自分が置かれている立場の認識。そしてこの空間が貴方に及ぼす影響といったところでしょうか………ん、どうしたんですか?変な顔して。」 「あ、いえ別に……その通りです。」 慌てて返事をする。 実際、驚いた。こちらの考えをよもうとしていたのは分かっていた。しかし、そこからでた答えが予想を遥かに超えて正確だった。
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