2人が本棚に入れています
本棚に追加
言ってから、失言かな?と思った。
これではまるで、冷やかしに来たような(ようなではなく、実際冷やかしだが)言い方だった。
しかしその人の反応は怒るでもなく、笑っていた。
「いいえ。きっかけ、動機などはどうであれ、貴方はこの空間を見つけ、中に入った。それだけで、私にとっては貴方はお客様。
稀にしかこないお客様に手ぶらで帰らせる事は、私のプライドに反します。
どうか、望みを言っていただきたい。それを叶える知識の詰まった書を差し上げましょう。」
差し上げる……だと?
それでは、その人に利益はないじゃないか。
そう思ったところで、その人が言っていた言葉を思い出した。『条件付きで、望む本を与える』確かにそんなことを言っていた。
じゃあその条件とは………なん「私を楽しませる事ですよ。」
「…え?」
「こんな事をしていると、日々が単調でつまらないときが多いんですよ。そんな中、貴方達が語るエピソードはとても楽しい。本の収集よりもずっとね。」
そう言った顔には笑みが浮かんでいた。しかしそこはかとなく、寂しさも浮かんでいて……
「まさか貴方は………この世界で……」
「その先は言わない事にしましょう。」
そして、その人は気恥ずかしそうに肩を竦めた。
それでこの話は終わりのように、それで悲しみから逃れるように。
「それでは…………」
自分が欲しい種類の本を口にすると、その人は予想外だったのか少しだけぽかんとして、それから「今日はお客様に驚かされてばかりですね。」
と苦笑した。
「こちらこそ、貴方どころか全てに驚かされてますよ。」
とその人のように肩を竦めた。その人は楽しげな様子だった。
「それでは、これが貴方が望むものが書かれた本です。」
差し出された本は、たいして珍しくもないどこにでもあるような本だった。
俺はその本を手に、その世界を後にした。
必ずエピソードを話しに来ます。と約束して。
最初のコメントを投稿しよう!