2人が本棚に入れています
本棚に追加
「まずは久々の再会に乾杯か。」
「まぁ、そうだな」
小気味良い音をたてながらジョッキを軽く交わし、一気に喉に流す。
ぷはー、と何とも親父臭い声を出しながらジョッキを置く。
目の前で酒をのんでるのは10年来の親友であり、自称『孤高の旅人』だ。
小学校から大学まで一緒の所に通っていたのだが、ある日突然
「俺は旅人だ。ここでのんびり学生なんかやってる場合じゃないんだ!
旅………そう、旅にでなくては。俺は旅に出る!」
だかなんだか叫んでは本当に大学を中退して旅に出てしまい、それ以来余り会う事がなくなってしまった。
「で、今回は何処まで行ってきたんだ?」
「ブラジル」
「ブラジルってお前……また遠いところに行ったなーおい。
………どうだった?」
「うむ。実に良かったぞ。ジメジメとした熱帯雨林とそれを伐採する人々。町中に見られる日系人。そして郊外にあるスラム街。どれも貴重な経験だった。」
その皮肉が面白くて、ついつい笑ってしまった。
「つまりは微妙と。」
「うむ……日系人がいるとどうしても外国に行った気がしなかった。
更には樹々が伐採される様子は、まるで自分の身が引き裂かれるような思いだった。」
「あー、そういやお前は生粋のエコ野郎だったな。」
「地球の未来を真剣に考えてる者と言って欲しいね。
ああ、この割箸があの森林での光景の引き金になっているかと思うと、我々はなんと罪深いのだろうか。
という訳で、マイ箸だ。お前の分もあるぞ。」
と言って本当に箸を二膳用意するので、降参だとばかりに両手を上げ、手にあった割箸を元の場所に戻す。
「これでいいか?」
その言葉にふんぞりかえりながら
「まぁ、よかろう。今までの罪が消えたわけではないがな。」
と言われてしまうと苦笑してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!