第一章

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「まずは久々の再会に乾杯か。」 「まぁ、そうだな」 小気味良い音をたてながらジョッキを軽く交わし、一気に喉に流す。 ぷはー、と何とも親父臭い声を出しながらジョッキを置く。 目の前で酒をのんでるのは10年来の親友であり、自称『孤高の旅人』だ。 小学校から大学まで一緒の所に通っていたのだが、ある日突然 「俺は旅人だ。ここでのんびり学生なんかやってる場合じゃないんだ! 旅………そう、旅にでなくては。俺は旅に出る!」 だかなんだか叫んでは本当に大学を中退して旅に出てしまい、それ以来余り会う事がなくなってしまった。 「で、今回は何処まで行ってきたんだ?」 「ブラジル」 「ブラジルってお前……また遠いところに行ったなーおい。 ………どうだった?」 「うむ。実に良かったぞ。ジメジメとした熱帯雨林とそれを伐採する人々。町中に見られる日系人。そして郊外にあるスラム街。どれも貴重な経験だった。」 その皮肉が面白くて、ついつい笑ってしまった。 「つまりは微妙と。」 「うむ……日系人がいるとどうしても外国に行った気がしなかった。 更には樹々が伐採される様子は、まるで自分の身が引き裂かれるような思いだった。」 「あー、そういやお前は生粋のエコ野郎だったな。」 「地球の未来を真剣に考えてる者と言って欲しいね。 ああ、この割箸があの森林での光景の引き金になっているかと思うと、我々はなんと罪深いのだろうか。 という訳で、マイ箸だ。お前の分もあるぞ。」 と言って本当に箸を二膳用意するので、降参だとばかりに両手を上げ、手にあった割箸を元の場所に戻す。 「これでいいか?」 その言葉にふんぞりかえりながら 「まぁ、よかろう。今までの罪が消えたわけではないがな。」 と言われてしまうと苦笑してしまう。
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