第一章

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俺がその本を見つけたのは、古い書店での事だ。  どの町でも、潰れないのが不思議なくらいに寂れているような書店があるだろう? 俺はそんな書店を転々と巡って、珍しい古本を見つけることが好きだった。 だから俺がこの本を取った事も、偶然じゃないかもしれない。  それは数年前のこと。日本の夏独特の、ジメジメとした暑さの強い日だった。 当時大学生だった俺は、少し小高い丘の上に建てられた、アパートの上に住んでいた。遠くの都会が見える、良い部屋だった。 この町は、10年程前にニュータウン計画で出来た町らしくて、 周りは閑静な住宅街で、道幅も広く道路の脇には小さいながらに、街路樹が植えてあった。 町から離れているために、大学へ通うのが少し辛いが、 それすらも家賃が安くなる理由になったし、都会のごちゃごちゃした町並みに比べれば…と考えると、そんなに欠点ではないと思う。 俺はその町が気に入っていた。 その日も、おれは趣味の書店巡りを終えて、家へと続く長い坂道を上っていた。その日の収穫は二冊。どちらも馴染みの店で買ったものだ。(まぁ趣味がこうじて、既に町の書店の大半が『馴染み』であるが。) おれは暑さに弱くて、多分げんなりしながら歩いていた。 坂を暫く歩き、自分の中で坂の中間地点、と考えてた曲がり角についた。此所は少し広場っぽくなっていて、ベンチもあり長い坂を上がる最中の休憩にはもってこいなのだ。 此所には小さな空き地もあり、小さな子供が良く遊んでいるのだが、その日は珍しく誰も遊んでいなかった。 道の隅にあるベンチに腰掛けて一息ついて、なんでこんな長いんだと汗を流しながらぼやいたかもしれない。 もしくは、高校で部活をやってた頃はこの程度では疲れなかっただろうな。と昔を懐古してたかもしれない。 しかしそんな事は、今思う事じゃない。 おれはそこで、あの書店を見つけたのだから。 .
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