第一章

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もう俺のそのときの驚愕は言葉で言い表せない。 叫んだかもしれないし、 ベンチから転げ落ちたかもしれない。 もしかしたら少しちびっちゃった、なんて可能性もある。 なんせ何も無い空間に、少し眼を閉じていた間に建物が出来たのだから。 どんなに驚いても、不思議ではなかった。 驚く他なかった状態から、時間が経つにつれ、心に余裕が出来てきた。 深呼吸をして心を落ち着けて、その家をみる。 今時珍しい、引き戸式の玄関。全ては木で出来ていて、テレビでみた昭和初期の建物に良く似ている。 そして何より目を引くのが、引き戸の上の看板に大きく書かれた【書店】の二文字。 看板がなければ、どうしても民家にしか見えないたたずまいだった。 そうしてその建物を観察していると、引き戸が開き人がでてきた。 掃除をするのか、掃除用具を手にもっていて、年は20後半程。 端整な顔立ちで眼鏡をかけた、170ぐらいの背をした人だった。 そしてこっちに気が付くと、少し驚いた顔をしたあと、すぐに笑顔を浮かべ、 「あらお客さんですか、いらっしゃいませ。 我が書店へ。中へお入り下さい。」 と言った。 俺は書店巡りが好きだ。それも寂れているような、マイナーな店を訪ね歩くのが。 だから何はどうあれ、目の前に書店が現れたとあれば、当然興味が沸いた。 そして俺は、その言葉に誘われるがままに、その【書店】に入っていった……… .
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