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「お婆ちゃん、これ美味しい!」
「そうかい?有難うね」
―本当によく食べる子だこと。
作りがいがあるわ!
少女は今何杯目かのご飯をおかわりしたところだった。
老婆はやっと落ち着いてきて、目の前にいる一人と一匹を落ち着いて観察出来るようになっていた。
少女の服装、それは実に奇妙なものであった。
年頃の娘なら…それにどこか裕福そうな感じのこの娘ならもっと華やかな着物を着てもいいと思う。
しかし、彼女は真っ黒い生地に紅い桜の刺繍が施されている見たこともない着物を着ていた。
帯も締めず、まるで男物の着物のようだったが、男物でないことも確かであった。
大きく胸元が開いており、胸にはさらしが巻いてある。
そして臍の辺りは縦に細く切り抜かれていて臍を丸出しにしている。
下半身についてはこれまた奇妙なものだった。
着物の下半分を着ているのだが、左腿から下に切れ目が入っていて真っ白な細い足がちらちらと見えるようになっている。
これについては老婆は、戦いやすいようにだろうと勝手に解釈した。
全くもってその通りなのだが。
髪形、普通なら結うか髪の下辺りで緩く一つに結ぶ。
少女はどちらとも違うかった。
まず、頭の上の髪を纏めて結っており、そこには蝶や玉がついた簪を綺麗にさしている。
残りの髪は結いもせずそのままにしてあった。
器量は其処らの娘と比べたら段違いに良く、男共からちやほやされる存在であるはずだ。
―現代なら普通かもしれない少女の格好。
しかし、江戸時代ならば異質な物と見られても仕方がない。
否、それが普通なのだ。
目に見えないものを人は恐れる。
だが、自分を含めた"普通"な集団から外れているものを人は仲間からはずしたくなり…。
何時の時代も変わらぬ人間の本性だろう。
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