靴隠し

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遊んだ後に、 必ずやってくるのは、 さようならの寂しさ。 今までが楽しかったらその分だけ、 さようならは重くのしかかる。 「あっ、もうこんな時間か…。ごめんな?お兄ちゃんもう帰らなあかん。」 家の時計を見ると、眼鏡をかけた、大学生くらいの男が言った。 「帰るの?」 その言葉に反応したのは、小さな女の子。 「そっ。時計見てみぃ?短い針が5の所指しとるやろ?そしたらさようならの時間なんやで?」 肩くらいまである、黒い髪の毛を掻きながら、女の子に向かって笑う。 「時計くらいもうわかるよ。だって加奈、もう5才だもん。」 二つ結びをした、ピンク色のジャンパースカートを着た小さな女の子、加奈は、頬を膨らませる。 「ほーかほーか。加奈、5才やったんか。もうすぐ小学生になるんやな。もう姉ちゃんや!」 「そうだよ?もうお姉ちゃんだよ。」 「そしたら母ちゃん帰って来るまで後ちょっとやし、待ってられるやんな?」 加奈は、幼いながらに気付く。 「(兄ちゃんは、加奈のこと子供扱いしてるんだ。)」 「じゃあな?また明日、遊んでやるさかい。」 玄関に向かって歩き出す。 加奈もそれに続く。 「何怒ってん?」 「怒ってないもん。ばいば~い。」 加奈はしぶしぶ手を振った。 「しゃあないなぁ。明日、ポテチ買ってきてやるわ。一緒に食べような?」 「兄ちゃんがどうしても加奈と食べたいならいいよ。」 加奈の言葉にふふっと笑うと、男は言う。 「めっちゃ食べたい!可愛い加奈ちゃんと一緒に!」 小さくたって女の子。 可愛いと言われてしまえば心は躍る。 「絶対だよ?」 「約束な?ほな、さいなら~。」 男は加奈の近所に住んでいて、加奈の家とは、家族ぐるみで仲がよかった。 だからこうして、加奈の親がいない時、バイトや遊びに行く前や後に、男は加奈の遊び相手になってやっているのだ。 加奈はそんな『近所のお兄ちゃん』が大好きだった。 小さい頃によくある、『憧れ』の対象が、加奈にとってはこのお兄ちゃんなのだ。
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