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桃は憂鬱だった。
毎年必ず来る雛祭。
母親が大切そうに天袋の中から出してきた大きな箱。
蓋を開けると初めに鼻につく、カビ臭い匂い。
埃に覆われたモノ。 … それは雛人形だった。
手入れが悪いのか。
ところどころ虫に食われた着物。
元元は白い肌だったろうに。
今は、くすんだ色の肌をした人形達。
桃は嫌いだった。
雛祭の日は菓子を食べても叱られない日。
だけど古めかしい人形を見るのは嫌だった。
人形の虚ろな目。
じっと見ると吸い込まれそうな真っ暗な目。
カビ臭い匂い。
埃まみれの着物。
何より無表情な顔が嫌いだった。
□■□■□■□■
その日の夜。
急に眠気に襲われた桃は、やりかけの宿題も放ったらかしにしてベッドに潜り込み目を閉じた。
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