四章 彷徨うもの

5/32
前へ
/218ページ
次へ
「まっ、私はあんたとは違って心が広いから、教えてあげてもいいわよ……ただし!」  ミオンは、ビシッと右手人差し指をクロスの眼前に突き出した。 「あなたと『彷徨うもの』の関係について教えてくれたらだけど」 「ちっ……」  クロスは、やはりそうきたか……というような顔をしている。  何となく、話の流れからこうなるだろうことは予測が出来ていたのだった。 「さあさあ、どうするのよ。私はどっちだっていいんだからね」  そう言って、彼女はクロスを急かす。  クロスはしばらく考える素振りを見せた後…… 「分かった……」  仕方が無いといった様子でそう答えた。  その瞬間、これまでで最高の笑顔をミオンは浮かべた。 『彷徨うもの』についての情報は、先程ルヴィ達から粗方教えられており、彼女が本当に知りたかった情報は既にほとんど得ているのだが、いつの間にかクロスの口から『彷徨うもの』との関係を話させるということが、彼女の目的にすりかわっていたようである。  そう、ミオンの中では自分とクロスとの勝負みたいになっていたのだ。  クロスにはそんなつもりはまったくないのであるが、勝気なミオンの中では勝手に戦いが始まっていたのである。  そして、ようやく強固だったクロスの壁を打ち破り、彼の口から真実を話させることで、今ミオンは勝負に勝ったという達成感を得ていたのだった。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加