湖に沈む僕の腕

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物心ついたときには児童施設にいた。 出される食事はパン一枚。それが1日に2回だけ、少ないときには出されもしなかった。間食なんてもっての他。 毎日その施設は子供が泣き喚く声がBGMだった。やめて、ゆるして、いたい、いたい、敬語も知らない幼い子供が止めてくれと懇願する。 洗濯機に放り込まれて電源を入れられた子。洗濯機が回る音でその子の声はかき消された。 頭を大きな皿で殴られた子。皿が割れたと、理不尽な理由でまた殴られる。 目が生意気だと、片目を潰された僕。見るも無残な僕の片目は床に転がった。 だけど、あの人だけは優しかった。 虐待を受けて怪我を負った子供の手当てをしていた、名も知らないスタッフの女の人。 1日に何人もの子供がその人に助けを求めて、でもその人は他のスタッフがいない場所でしか手当てをしなかった。 「ごめんね、あの人たちに見つかっちゃうと、私も怒られちゃうの」 よく見れば、その人の綺麗な顔にも無数の痣があった。 だから僕は、僕がいつか大きくなって、此処から出られる日がきたら、この人も一緒に連れ出して、警察に助けを求めて子供たちも救い出そう、そう思った。
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