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「いやあ!やめてっ!」
「口答えするなっ、見逃してやってるんだからおとなしくしろ!」
あの人の綺麗な声と、僕らを罵倒していた下品な声が重なる。
あの人は暗いジメジメした黴臭い部屋で3人のスタッフに組みしかれていた。
あの人がじたばたと抵抗をすると勢い良く拳が飛んだ。ごっ、という鈍い音がして、あの人はおとなしくなった。
スタッフの1人が、縁に雑巾をかけてある金属製のバケツを片手で掴むと、その中の汚い水をあの人の顔にばしゃりとかけた。あの人の肩がぴくりと反応をする。
「気絶してんじゃねえよ」
スタッフの1人が吐き捨てて、もう2人のスタッフはあの人の乱れていた服を掴むと勢い良く破り捨てる。
白い肌には痣の他に擦り傷やまだ新しい傷が、血を滲ませていた。
「…も、や…め…」
か細い声が辛うじて聞こえる。綺麗な声は掠れていた。
臆病な僕は、その光景を見ているのが怖くなって、足音を立てないように足早に逃げた。
他の友達が寝てる部屋に戻って布団を頭まで被って耳を塞いだ。何も考えたくなかった。何も感じたくなかった。
その日の朝、僕は寝ていなくてすっきりしない頭で、あの人が行方不明になったことを知った。
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