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「…あの、」
「ん?ああ、センくん?」
ここの施設で働き始めたのはつい2ヵ月程前だった。
無垢で可愛い子供が昔から大好きで、いつかは子供と関われる仕事をしようと思って、行き着いた場所は身寄りの無い子供たちを保護する児童施設だった。
此処には数年前にあった他の児童施設でのスタッフ殺害、児童虐待事件で心に傷を負った子供たちが暮らしているらしく、最初はどう接して良いのか良くわからなかった。
事件のせいで大人を信じられなくなった子供たちは自分から大人に近づくこともない。
こちらから近付いても恐怖を覚えさせるだけだった。
「どうしたの、なにかあった?」
珍しく自分から声をかけてきた少年に出来るだけ怖がらせないよう優しく答える。
「…、髪、切ってくれませんか」
俺には目を合わせず、恥ずかしそうに、と言うよりかは、干渉をして欲しくないと言う思いが強く伝わる。
少年は片目を眼帯で覆っていた。さらに長い前髪で表情が伺えない。
ただ、口元は笑っていなかった。
この片目と、この無表情は前の施設時代に身に付けてしまったものだろうか。
殺人まで犯す施設だ、片目と表情を無くす事など容易かもしれない。
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