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――『都立 星野高等学校』――
都内の高校の中でも学力的には平均的な学校ではあるが、スポーツクラブが盛んで数々のクラブがトロフィーを飾っている。
ソラも「空手部」として幾つかのトロフィーを校舎の玄関に納めている。
校舎はどこにでもある様なコンクリート造りの建物だ。
ソラは「二年 C組」と書いてある教室の引き戸を、中の様子を伺いながら、音を立てない様ゆっくりと開けた。
科学の講師「今岡」が白髪頭をボリボリと掻きながら大きな黒板に黙々と化学式を書き込んでいる。
黒板に書かれている化学式を黙々とノートに書き写している生徒達。
ソラの机は一番後ろの列の窓際に位置している。
出来る限り足音と気配を消しながら、自分の机まで腰を屈(かが)めながら移動する。
後部列の何人かの生徒はソラの滑稽な姿に気付き「クスクス」と笑っているが、今岡は全く気付かない様子で黒板にチョークを走らせている。
なんとか自分の机に到着したソラは、何食わぬ顔で黒板の内容をノートに書き写し始めた。
ふと顔を上げるソラと、クラスメイトの松之宮 杏里(まつのみや あんり)の目が合った。
ソラの初恋の女の子だ。
長く艶やかな亜麻色の髪をしており、目の大きな小顔のアンリは、街で芸能事務所にスカウトされるほど整った容姿をしている。
アンリの透き通った綺麗な瞳を見るだけで、ソラの胸の鼓動が激しくなる。
高校の入学式で一目見た時から好きだったが、恋に奥手なソラは、まともに話をした事もなく、ずっと片思いだ。
振られてしまうのが怖いからなのかも知れない……
直ぐに目線を逸らしたソラは再びペンを走らせた。
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