第1話 口裂け女、今日子

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朱に彩られた引き戸は社に入る際に泰子が開いたので、入り口の右端で二枚重なっていたはずだった。 だが、だんだんと二枚の戸には、ずれが生じてきた。 右の戸は打ち付けてあるかのように閉ざされ、依然として入り口の柱との隙間はない。 つまり、先ほど泰子が開いた左側の引き戸だけが動き出し、元あったように閉まろうとしているのだ。 恐怖のあまりバチを両手に持ったまま体を強張らせる泰子に対し、焦りながらも揚子の指示は的確であった。 「逃げるよっ!・・・それ、早く戻して!」 揚子の言葉にピクリと反応し我を取り戻した泰子は、社の外へ逃げる姿勢を取ろうとした。 しかし自らの両手に握られているものを指摘されると、乱雑ながらもバチを元あった場所に戻した。 こんな時でも揚子は取り乱したりはしない。 自分だけ逃げて助かろうなどという様子は微塵も見せず、揚子は入り口の手前で振り返り泰子が来るのを待っている。 慌てふためきながらも走って外へ出ようとする泰子の目に、揚子の眼差しが写った。 「ご、ごめ・・・!」 言葉にならないながらも、泰子は反射的に揚子に謝っていた。 何故か、こんな時には謝罪の言葉が自然と出てしまう。揚子と視線を交わしながらも社の外に出て、もと来た道を必死に引き返そうとする泰子。 しかし揚子は泰子の手を無言でつかみ、行く手を阻んだ。 「・・・へっ?揚ちゃん?!」 揚子の思いもよらぬ行動に、泰子が戸惑いを見せる。 その後方には、幾分か離れた距離から社へと向かって歩いてくる、「口裂け女」今日子の姿があった。
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