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朱に彩られた引き戸は社に入る際に泰子が開いたので、入り口の右端で二枚重なっていたはずだった。
だが、だんだんと二枚の戸には、ずれが生じてきた。
右の戸は打ち付けてあるかのように閉ざされ、依然として入り口の柱との隙間はない。
つまり、先ほど泰子が開いた左側の引き戸だけが動き出し、元あったように閉まろうとしているのだ。
恐怖のあまりバチを両手に持ったまま体を強張らせる泰子に対し、焦りながらも揚子の指示は的確であった。
「逃げるよっ!・・・それ、早く戻して!」
揚子の言葉にピクリと反応し我を取り戻した泰子は、社の外へ逃げる姿勢を取ろうとした。
しかし自らの両手に握られているものを指摘されると、乱雑ながらもバチを元あった場所に戻した。
こんな時でも揚子は取り乱したりはしない。
自分だけ逃げて助かろうなどという様子は微塵も見せず、揚子は入り口の手前で振り返り泰子が来るのを待っている。
慌てふためきながらも走って外へ出ようとする泰子の目に、揚子の眼差しが写った。
「ご、ごめ・・・!」
言葉にならないながらも、泰子は反射的に揚子に謝っていた。
何故か、こんな時には謝罪の言葉が自然と出てしまう。揚子と視線を交わしながらも社の外に出て、もと来た道を必死に引き返そうとする泰子。
しかし揚子は泰子の手を無言でつかみ、行く手を阻んだ。
「・・・へっ?揚ちゃん?!」
揚子の思いもよらぬ行動に、泰子が戸惑いを見せる。
その後方には、幾分か離れた距離から社へと向かって歩いてくる、「口裂け女」今日子の姿があった。
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