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「コンコンの家、こっから近いから!」
揚子は一言だけ言うと泰子の手を引き、社のさらに奥へと導いて行く。
泰子は不安に思いながらも、ただ揚子を信じついて行った。
手をつないだまま細道を走る二人。
後ろからは相変わらずガタガタと物音が聞こえてくるが、振り返ることなく前へ進んで行く。
途中、木の根や段差に何度も足を取られる泰子。
無我夢中で揚子の後を追う泰子に、足元まで注意する余裕は全くないようだ。
紺野家の敷地内との境目にある二つ目の鳥居の近くまで来たところで、ふいに揚子が立ち止まる。
勢い余った泰子は揚子の背中に顔面を強打し、小さく声を漏らし悶絶した。
揚子の目に映ったのは、今日子だった。
「コンコン、あのね・・・」
揚子が言いかけると、横から泰子が口を挟む。
「あれ?コンコン、何でいるの?!」
無論ここは紺野稲荷大明神と紺野家を結ぶ道なので、今日子がいても何の不思議もない。
的外れな発言に呆れ、揚子は無言で泰子の口を手で塞ぎ、話を進める。
「コンコン、あのね?泰ちゃんが・・・」
ここまで言ったところで、今度は今日子が話を遮る。
「・・・何かあったんでしょ?私はお父さんに言われて来たの。
太鼓の音は私の家まで聞こえてきたけど、イタズラ対策の警備なら私に行かせるなんてことはさせないと思う。」
今日子は堂々とするでもなく怯えるでもなく、不思議そうな面持ちで淡々と続けた。
「私に何か出来るってわけじゃないんだけど、お父さんが私に行けって・・・。」
すると、揚子が言いづらそうに切り出す。
「泰ちゃんが、お酒が入ったおちょこを割っちゃったの・・・。
そしたら、引き戸がガタガタって動き出して・・・。」
そう言ったところで、揚子は異変に気づいた。
さっきまで聞こえていたはずの、引き戸の音が聞こえなくなっていたのだ。
今いる場所から社まではそう離れていないので、さっきまでのような大きな音が聞こえなくなるようなことはない。
「あれ?音が聞こえなくなってない??」
揚子は後ろへ振り向いて、泰子の同意を求める。
しかし、泰子の様子がおかしい。
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