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避けようとしても体に力が入らない。
二人は倒れてくる鳥居の軌道を眺めている他になかったのだ。
反射的に目を閉じ眼前に手をかざす今日子とは対照的に、なす術がないと悟り呆然と立ち尽くす揚子。
鳥居が倒れてくるまでの間は、やけに時を長く感じた。
まるで、スローモーションの映像を見ているかのような錯覚に陥った。
鳥居が目前に迫ってくる頃、揚子は時間が止まってしまったかのような違和感を覚えた。
揚子の違和感は、気のせいではなかった。
常識では考えられないが、確かに今日子が反射的に差し出した両の掌で、鳥居が止まっているのだ。
そして二人は現実を受け入れることが出来ずに、鳥居が倒れる前と全く同じ姿勢を取り続けていた。
静寂を破ったのは今日子でも揚子でもなく、泰子を操る狐だった。
「貴様!何者だ?!」
そう言いながら歩み寄る狐。
今日子と揚子は恐怖のあまり、その姿を目で追うことしか出来なかった。
狐は立ち尽くす揚子の前を真直ぐ通り過ぎ、今日子の前でピタリと足を止めた。
「・・・まさか?」
狐は静かに呟くと今日子のマスクに手をかけ、ためらいなく剥ぎ取った。
今日子の顔には、狐と同じように耳まで裂けた口が露になった。
信じられない出来事が続き、口をパクパクと動かす揚子。
この状況では当然だが、いつもの冷静さは完全に見当たらない。
それに対し、今日子は自分でも意外な程に落ち着きを取り戻していた。
精悍な面持ちで狐に向かって口を開く。
「そう、私は紺野家の子孫よ!」
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