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それに対して、今度は逆に狐が動揺した様子で言い返す。
「そんな馬鹿な!今の今まで何の力も感じなかったぞ?!」
それに対し、淡々と返す今日子。
「力を感じない?良く分からないけど、私は生まれつき霊感がないの。
でも、私はれっきとした紺野家の人間よ!」
それを聞いた狐は額に汗を浮かべ、口を閉じる。
再び訪れた沈黙の中に、足音が聞こえてくる。
現れたのは今日子の父親、季恒だった。
季恒は、いくらか冷静さを取り戻して事の流れを見守る揚子に目をやり、黙って頷くと口を開いた。
「狐よ、確かに今日子は紺野家の人間だ。しかし、今日子には高い位の狐が宿っている。」
その言葉に、明らかに驚きの反応を示す狐。
「狐が宿っている?!そんな馬鹿げたことが・・・!」
諭すような、ゆっくりとした口調で季恒が返す。
「見た所、お前は若い狐のようだから知らないのも無理はない。この事は限られた者しか知らないからな。」
季恒はさらに続ける。
「この娘に宿るのは銀毛狐(ぎんもうこ)だ。この名前を聞けば納得できるか?」
ハッとした表情を見せ、先ほどまでとは対照的な弱々しい震えた声を発する狐。
「銀毛狐様・・・たしかに、あのお方なら・・・。失踪したと言われ、その詳細は誰も知らないと言われるあのお方が、この娘に・・・!」
狐が今日子の方を向くと、そこには、自分の存在を示すかのように瞳を琥珀色に染めた今日子が立っていた。
「私の中に・・・狐が?!」
誰にでもなく呟く今日子に、季恒が再び口を開く。
季恒は、この場にいる全ての者に伝わるように説明した。
「確かに今日子に霊能力は見受けられないが、それは今日子が邪の者に対抗し得る特別な存在であるからだ。
時を遡ること千年。邪の者の力が拡大した時に一人の霊能力者が狐と力を合わせ、日本を守ったと伝えられる。
邪の力が拡大した現代に、今日子は同じ使命を与えられたのだ。」
変化した今日子の瞳の色や狐と同じように裂けた口が、季恒の言葉に偽りがないことを示していた。
「この瞳の色、それに今の霊力・・・私など足元にも及ばない力。
正に神の領域・・・。銀毛狐様、季恒殿、失礼致しました!!」
狐は泰子の体を使って頭を下げると、姿を消した。
それと同時に泰子は膝から崩れ落ちた。
意識は未だに戻っていない様だった。
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