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今まで起きたことが夢であったのかのように、いつものような静けさが戻った。
しかし倒れた鳥居が、さっきまでの事が現実であった事を物語っている。
今日子は再びマスクをすると、申し訳なさそうな、それでいて気まずそうな表情で揚子の顔を見た。
瞳の色はいつの間にか、大和撫子を思わせる漆塗りのような艶めいた黒に戻っていた。
しかし、今日子は揚子の瞳を直視できずにいた。
その心中を察し、揚子が声をかけた。
「馬鹿・・・こんな事を一人で背負い込んでたの?!
私にくらい言ってくれたっていいじゃない!」
ついに下を向いてしまった今日子に、揚子は一息ついて冷静になってから話した。
「私たちの友情は、こんな事くらいじゃ揺るがないのだ!」
ようやくいつものような明るさを見せる揚子。
その胸の内は動揺していたのだが、今日子を安心させる為に平静を装ったのだ。
ようやく笑顔を取り戻した今日子を確認すると、揚子は忘れていた事に気づいた。
「あっ!泰子!!だいじょうぶ~?!」
今日子と揚子は、地面に倒れている泰子を起こした。
「うぅ~?んにゃ~。」
寝ぼけている泰子・・・どうやら問題ないようだ。
今日子は苦笑いをしながら揚子に告げる。
「・・・ありがと。これからもずっと友達でいてね?」
黙って笑顔で頷く揚子を見て、少し照れくさかったのか、今日子が嘆くように言った。
「お父さん!そんな大事なこと、なんでもっと早く言わないのよ?!」
振り返ると、いつの間に帰ったのか季恒の姿は既にそこにはなかった。
「ん?・・・もういない!
お父さんも狐か何かじゃないの?」
今日子がそう言いながら再び揚子の方へ振り返ると、二人は声を出して笑った。
二人の友情が今までよりも強くなった瞬間だった。
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