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揚子が、じっと今日子の方を見ながら呟く。
「ねぇ、コンコンの後ろに銀の狐が見える。それと、社の方からたくさんの狐がこっちを見てる。」
今日子は辺りを見渡したが、何も見えていない様子だ。
「えぇ?何も見えないよ~?」
予想外の言葉に少し戸惑うも揚子は、あえて今日子の言葉に食いかかったりはしなかった。
「ん?・・・そう。わたしが疲れてるだけかもねんっ!」
ここから2人の物語が始まろうとは、誰も知る由も無かった。
2人は落ち着きを取り戻し、未だに寝ている泰子を起こすことにした。
背中を叩こうと手を振りかぶっている揚子を軽くたしなめ、今日子が両手を差し出し優しく起こす。
「ほら、泰ちゃん起きて?」
泰子は静かに目を覚ました。
と、思いきや目を開けるなりガバッと起き上がり叫ぶ。
「はっ?!黒い悪魔がやって来たのだ!アーメン!ナンマンダブ!ジュゲムジュゲム!きえぇ~い!!」
泰子が元からの天然ぶりを発揮しているのか錯乱しているのかどうかは定かではないが、おそらく前者だろう。
もはや何も言う気にもならず、苦笑いをする揚子を尻目に、今日子が声をかける。
「泰ちゃん、さっき凄い地震があったんだよ?それで泰ちゃんは逃げるときに頭を打って気絶しちゃったみたい。」
それを聞いた泰子は視線を上に移し、しばらく考えた後にこう言った。
「ん~・・・そういえば頭が痛いかも??」
すると、ようやく揚子が口を開いた。
「泰ちゃんさぁ、もうちょっと大人しくしてると凄く可愛いんだけどなぁ?」
これにはもちろん皮肉が含まれているのだが、泰子が気づくはずもない。
揚子ならではの言い回しである。
泰子は照れくさそうに答える。
「ウチ、乙女になるわぁ!!」
揚子がツッコミを入れる。
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さっきまでのことが夢であったかのように、場が和んでいた。
しかし、突然に揚子が叫ぶ。
「あっ!コンコンに渡すプリントどっかに落としてきちゃった!!」
辺りは既に夕暮れ時。
街から少し外れた古くて小さな稲荷神社で、女子高校生が3人してギャーギャー騒ぎながら大事なプリントを探し歩いていた。
~第1話、終わり~
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