序章

2/2
前へ
/39ページ
次へ
オギャー・・・。オギャー! 「おぉ、産まれたか、麻実!」 と、季恒。 産婆とすれ違い、床の間へと入っていくと、幼子を胸に抱く麻実の姿があった。 「・・・はい!珠のような可愛らしい子にございます。」 息を整えながら返事をする麻実。 オギャー!オギャー!! オギャ!オ・・・。 泣き声が止んだ。 ・・・・・・・・・。 可愛らしい子の顔の表情は、みるみる豹変していく。 鼻先から顎までが突き出し、目尻がつり上がり、その瞳は琥珀色へと変わる。 「ひっ・・・!」 恐怖に言葉を詰まらせる麻実。 「・・・。」 同じく言葉を詰まれせる季恒であったが、その表情は険しく、何かを悟ったようでもあった。 間もなく幼子の体は起き上がり、その体の様は既に人間のものではなく狐そのものだった。 すると狐の口が開く。 「・・・先祖返りじゃ。わかっておろうな、神主。」 額に汗を浮かべながら季恒が答える。 「やはりそうであったか・・・。して、何をこの子に求める?」 狐の姿をした、産まれて間もない我が子に問うと、はっきりした口調で返事が来た。 「我らの力が必要な時が来たのだ。いずれ分かるだろう。」 そう告げると狐の姿は影を潜め、元の幼子へと戻っていった。 ・・・狐のように耳元まで裂けた口だけを残して。 オギャー・・・オギャー! 床の間には幼子の産声だけが響き渡った。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加