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オギャー・・・。オギャー!
「おぉ、産まれたか、麻実!」
と、季恒。
産婆とすれ違い、床の間へと入っていくと、幼子を胸に抱く麻実の姿があった。
「・・・はい!珠のような可愛らしい子にございます。」
息を整えながら返事をする麻実。
オギャー!オギャー!!
オギャ!オ・・・。
泣き声が止んだ。
・・・・・・・・・。
可愛らしい子の顔の表情は、みるみる豹変していく。
鼻先から顎までが突き出し、目尻がつり上がり、その瞳は琥珀色へと変わる。
「ひっ・・・!」
恐怖に言葉を詰まらせる麻実。
「・・・。」
同じく言葉を詰まれせる季恒であったが、その表情は険しく、何かを悟ったようでもあった。
間もなく幼子の体は起き上がり、その体の様は既に人間のものではなく狐そのものだった。
すると狐の口が開く。
「・・・先祖返りじゃ。わかっておろうな、神主。」
額に汗を浮かべながら季恒が答える。
「やはりそうであったか・・・。して、何をこの子に求める?」
狐の姿をした、産まれて間もない我が子に問うと、はっきりした口調で返事が来た。
「我らの力が必要な時が来たのだ。いずれ分かるだろう。」
そう告げると狐の姿は影を潜め、元の幼子へと戻っていった。
・・・狐のように耳元まで裂けた口だけを残して。
オギャー・・・オギャー!
床の間には幼子の産声だけが響き渡った。
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