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すぐに静寂は破られた。
理科室中の窓ガラスが割れ、ホルマリン漬けの標本や薬品類のビンも砕け散った。
すると、まるで水の波紋が拡がるかの様に理科室から学校中の窓ガラスが次々と割れていった。
その波紋は揚子のいる教室まで拡がり、教室中の窓ガラスが割れてしまった。
その時、揚子の目に映ったものは、黒い影のようなものだった。
黒い影が窓へと近づいた瞬間に窓ガラスが割れ、影は物凄い速さで教室中の窓ガラスを順々に回っていくと、隣の教室へと向かっていった。
「今、何か黒い影が見えなかった?」
突然に窓ガラスが割れて騒然としている教室の中で、揚子が誰へとでもなく言葉を発した。
しかし、賛同を得られるどころか、皆パニック状態でまともな返事さえ返ってこなかった。
揚子は気が付くと廊下へ飛び出していた。
ガラスの割れる音は既に治まっていて、代わりに生徒達の泣き叫ぶ声や助けを求める声などが廊下に響いていた。
すると、再び黒い影が揚子の目の前を通り過ぎて行った。
今度は真っ直ぐ静かに、どこかを目指しているかのように見えた。
いつの間にか揚子は、黒い影を追いかけ走っていた。
今日子の体を動かしたものは好奇心などではなく、まるで吸い寄せられるかのように自然と体が動いていた。
黒い影が向かう先は、最初にガラスの割れる音がした方向、つまり実験棟の方向だった。
揚子は渡り廊下を通って実験棟へと向かうと、そこで今日子とすれ違った。
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