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蒼田翠の音楽好きは生まれつきと言ってもよかった。中学校三年の春。卒業まであと一週間と迫ったあの日から、もう既に狂っていたのかもしれない。あの人と出会ったあの日から……──
「み~どり~っ!ちょっとちょっとぉ!イイ男見つけちゃったよ~!」
朝から教室に大きな声が響いた。
「はいはい」
翠は欠伸をしながら鞄を机に降ろした。
「ノリが悪いなぁ…。らしくないぞ」
「うん、ちょっと調子わるくて」
「そっか…」
このやかましいのは綸上レイ。翠の親友…ということになっているらしい。占星術が趣味らしく、それがよく当たるので、この子には嘘がつけない。右足に鉄の義足を填めて生活している。
「そういえばアレ、聞いた?」
レイはにやけながら耳元でつぶやいた。
「何の話し…?授業始まるまで寝かせて」
翠はまた欠伸をして机に伏せた。朝礼まであと30分はある。
「そうか、知らないのかぁ~。あいつが呼んでたのになぁ~」
レイの一言で、翠の頭がぴくっと動いた。
「蒼田を呼んでって言われたのになぁ~。きゃ~♪」
言い終わるや否や、翠は重い頭を抱えて立ち上がった。
「行けばいいんでしょ!」
言いながら教室を飛び出して行った。
「…単純ね」
レイは企みの目をして腕を組んだ。
今、この学校は妙な事件が多発している。教室の窓ガラスが一斉に割れ、体育祭では10名以上が原因不明のめまいで倒れ、その他ほとんどは軽い症状。体育館の照明が落ち、学校祭は台無し。…そんなことを思い出しながら翠は廊下を歩いていた。
「…あ。誰に呼ばれたか聞かなかった!」
「さぁ、誰だろうね?」
「え?…智一!」
後ろから卯月智一が軽く睨み付けてきた。柔道部に所属していたため、体格がよく、制服のままでも何となく雰囲気が出ている。通り過ぎる同級生が皆、智一を振り返る。
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