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「おい飛鷹!てめぇ何のためにこの学校に来たんだ?あぁ?スパイか?」
飛鷹と呼ばれた男は、広い図書室の真ん中で何十人もの生徒に囲まれていた。男はすらっと背が高い他は普通の生徒と変わりはない。
「……?」
飛鷹は微動だにせず立っていた。
「とぼけた顔しやがって。お前がメゾナ軍の奴だってことはとっくに知れ渡ってるぜ」
横から突然拳が飛んできた。飛鷹は避けてから少しつんのめった。
「…バカが。ここはレザードメア国。ゼロ軍の領域だ。メゾナ軍がここに居られる訳がないだろう」
後ろにいた生徒が飛びかかってきた。しかし飛鷹は難なくかわした。正面にいる男子が苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だからこうして『排除』してるんだよ」
「ただの転校生イジメだろ?生ぬるい」
飛鷹は口元だけ笑うと、拳を握り締めた。
──あのー…飛鷹くん、いますかー…?
翠は図書室の扉を開けるなり、怖々言った。返事はない。
異常なまでの静けさの中で翠は佇むより他なかった。薄暗く洋風でどこか懐かしい大きな窓から、陽の光が投げられた。
ふと足元を見て、ぎょっとした。人が倒れていた。一人ではない。ざっと見渡しただけで何十人も。翠は思わず後ずさりした…。
「君が蒼田?」
翠はびくついて振り向くと、後ろにいた恐らく飛鷹と思われる男子を見上げた。整った顔立ちだが、その唇は切れて血が滲んでいる。
(まさかこの人、一人で!?)
再び、倒れている何十人の生徒と飛鷹を交互に見た。
「すまん、いきなり襲ってきたからつい返り討ちに…。場所を変えるか」
「え…?」
「あ、いや…女子は殴らないから」
翠は男子の顔をまともに見られなかった。
「あの…飛鷹薫くん…ですか?」
「そうだよ」
(あ、笑った…)
薫が笑って答えたのを見て、翠はホッと胸を撫で下ろした。
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