~ 第一話 ~

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~ 第一話 ~

 「……あおい」  そう瞼を開いた葵の頬を、心地よい風が撫ぜていく。  薄暗い森の中、葵は木にもたれ掛かるように座っていた。 「今のは……夢?」  あれは七年前―――葵が十歳の時に初めて受けた、魔術師公認試験の夢だった。  夕食の野草を採りにきたはずが、休憩しているうちに眠ってしまったらしい。 「……そうだ、野草は!?」  と慌てて辺りを見渡すと一つの籠が、布をきれいに被せられ置かれていた。  布をめくれば休憩前に採った野草や茸、運良く見つけた木苺が顔をのぞかせる。  森に暮らす魔獣達に食い散らかされることなく、無事残っていたことに葵はほっと胸を撫でおろした。  ふと空を見上げれば、青く晴れていたはずの空はいつの間にか曇が覆い、いつ雨が降ってきてもおかしくないほど暗くなってきている。  葵は籠を抱えると家に向かって走り出した。  樹々を避けながら茂みを飛び越し、木の根に躓くこともなく葵は森をかけていく。  何年も毎日の様に行き交う森のどこに何があるのか、葵には手に取るようにわかる。  それはまるで住み慣れた家の庭のようなもの。  とはいっても葵の家自体が森の中にあるため、森自体が広い庭だといっても過言ではないのかもしれない。  地面から突出た岩を通り過ぎると、茂みの向こうに開けた空間が見え始めた。
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