~ 第一話 ~

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「りょーマ!?」 「…ちょっと!リョーマが何したのよっ!?」 「なんだ!?」 「どうしたんだ!?」 他の乗客達も驚いて振り向いた。 リョーマの胸倉を掴んだまま、乗客の男は騒ぎ立てている。 「こいつが盗賊はいないって言ったんだよ!口先だけで安心させて…襲われたらどうするんだ!!」 「っ…近くにはいないって言ったんだ、少なくとも列車の近くにはいない!」 リョーマは男の腕を振り払うと窓を指差した。 「見てみろ!ここは荒野の真ん中だ、隠れる森も茂みもない!!」 リョーマの言葉に乗客達が窓際に集まって行く。 「確かにその子の言う通りだ、地平線まで人影は見当たらない!」 「盗賊じゃないのね!」 乗客達が安堵の色を浮かべ喜びあっている。 葵はリョーマに駆け寄った。 「リョーマ!大丈夫!?」 「ああ、大丈夫だ」 「良かった…その…」 葵はリョーマの顔を心配そうにじっと見つめている。 リョーマは葵を見つめると、安心させるかの様に笑いかけた。 「…大丈夫だ、これ位何て事ない」 「リョ…え!?」 次の瞬間、葵はリョーマに抱き締められていた。 「リョ…リョーマ!?一体どうし…」 「……た…と思……」 「…え?」 他の乗客に聞こえな」葵もリョーマの身体に腕を回すと、ギュッと抱き締めた。 …ずっと一緒にいるから… …絶対離れずに… 「僕もいるのでスガ…」 「え!?」 振り向くと、氷河が困った様に苦笑いしていた。 「…忘れてた」 「…俺も動揺してた」 辺りを見回すと乗客達が呆然と抱き合っている自分達を見つめている。 「おい…早く謝ってやれよ」 「…そうだぞ、掴み掛かったあんたが悪いんだから」 リョーマの背後では胸倉を掴んでいた男に、他の乗客達が謝る様に促していた。 「いや…今は何か話掛けづらいだろ…!」 乗客達に押出されるかの様に男はリョーマに近付いてくる。 お互い抱き締めていた腕を放すと、リョーマは男に向き直った。 「あ…悪かったな」 「いや…混乱してたし、仕方ないかと…」 「…そうかよ」 男はリョーマの返事を聞くと決まりが悪そうに乗客達の中に紛れて行った。
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