~ 第一話 ~

3/6
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
葵は他の乗客に聞こえない様に、リョーマの背後からこっそり話し掛けた。 「ねえ…それじゃ線路はただの劣化なの?」 「いや、それなんだけどな…」 リョーマは葵に振り返ると耳打ちしようと顔を近付けた。その時、 「乗客の皆様、どうもお待たせ致しました」 乱れた制服を整えながら、二人の乗務員が隣りの車両から入ってきた。どうも他の車両で乗客に絡まれたらしい。 一人の乗務員はこの車両の乗客達が落ち着いている事に気付くと、驚いて呆然としていた。隣りの乗務員が小さく咳をすると乗客達に向かって話し始めた。 「え~進行方向で地盤沈下が起こった為、線路が破損致しました。ただいまカントリアから補修人員が向かっております」 「補修はいつ頃終わるんだ」 乗客の一人が乗務員に質問した。周りの乗客達もいつまで待つのか囁き合っている。 「補修人員の到着が約一日後、修理に一日を予定しております」 「二日も!?」 「俺達はこのまま列車の中で待つのか!?」 数人の乗客達が乗務員に詰め寄った。 「いえ!乗客の皆様には一旦車両から離れて頂き、二日間は近くの村に滞在して頂きます」 乗務員は乗客達を落ち着かせなければと慌てて話し出した。 「ここから馬車で一時間程の村です。村周辺には温泉が湧き出ておりますので、ゆっくりご堪能して頂くのが良いかと…」 氷河は葵達を振り向くと、眼を輝かせながら嬉しそうに声を上げた。 「ご主人サマ!温泉でスヨ!」 「本当に!?氷河、良かったね!リョーマも!」 「温泉か!お前も初めてなんだよな?」 「うん!どんな感じの場所かな?」 他の乗客達も歓声の声をあげると、ざわざわと騒ぎ始めていた。 「村から馬車が向かっております!あと数十分で到着しますので、しばらく車内でお待ち下さい!」 乗客達の声に書き消されない様に、乗務員が声を張り上げて叫んでいる。 葵達は床に落ちた毛布をバッグに片付けると、馬車の到着まで話しながら待った。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!