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ナジならば本当の正体を知っているかもしれないと思ったが、結局訊けずじまいだった。
その日、ナジはあの巨人の機関砲の直撃を受けて死んだ。
イヤード自身も危機一髪の局面だったのでよく覚えていないが、巻き起こった土煙の向こうで、肉が引きちぎられるおぞましい音がしたように感じる。
さして仲が良かったわけではないが、目の前で仲間が死んだのは、あまりいい気分ではない。そしてその音が、未だに耳の奥にこびりついていた。
どろ、と目に入るものを感じて、イヤードははっと顔を上げた。
いつの間にかうつらうつらとしていたらしい。慌てて外の様子を伺ってみると、夕陽の鮮烈な赤はいささか衰え、空はやや藍色に近くなっていた。
幸いそれほど時間が経っているわけではないようだ。
ほっとすると同時に、目元を拭って鼻に近づけてみると、鉄の匂いがした。
ずいぶん弱くなった光に手をかざしてみると、赤黒い染みが浮かび上がった。大きさからして、それほど多く出血しているようではない。放っておくことにした。
日はもうじき暮れるだろう。そろそろ潮時だろうと思い、イヤードは立ち上がった。
万全とは言えないものの、体の調子も少しはましになった。
凝った体をほぐしていると、傍らの銃に目がいった。銃は決して軽くない。心残りだが、弾薬と共に置いていくことに決めた。
狭い入口に向かい、首を突き出して辺りを伺う。
敵の姿――無し。
うるさく鼓動を刻む心臓。喉はからからに乾き、飲み込む唾はねばねばとからむ。
大きく……大きく深呼吸すると、イヤードは一歩を踏み出した。
足裏が、乾いた大地を踏む衝撃をしっかりと伝えてくる。
一歩、二歩、三歩……。
走り出したイヤードの背中を、その体の大半を地平線の向こうに沈めた太陽が、哀れむように、あるいは蔑むように照らしていた。
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