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手の甲で強く目を擦ると、溢れ出た涙が不恰好な涙の跡を手の甲に描いた。
咳は無理矢理抑え込んだが、激しい咳が追い撃ちをかけたせいで、肺全体がきりきりと悲鳴をあげている。息をするたびに、胸を切り開かれるような痛みがイヤードを襲う。
土煙がやや収まってくると、またあの足音が耳に入ってきた。
ぐずぐずしてはいられない。
思うように力が入らない足に苛立ちながら、イヤードはふらふらと立ち上がった。
膝が笑い、足元がおぼつかない。
負い紐の位置を直し、背負ったもの――鉄と木でできた古ぼけた小銃――の位置を確認する。それは、この場においては、何よりも雄弁な身分証明書だった。
イヤードは荒い息を押し殺し、岩陰から追っ手を盗み見た。
その視線の先にいたのは、赤い巨人だった。暮れなずむ夕陽に装甲を赤く染め、悠々と歩を進めている。
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