哀れむように蔑むように

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少しは休まったはずの肺が、またすぐに情けなく悲鳴をあげはじめた。 砂埃混じりの空気は肺を満たすことなく、のどをざらざらと刺激するだけ。 走れば走るほど増していく苦しさに、意識は早くも朦朧としつつあった。 薄ぼんやりと霞みがかった世界で、数少ない現実感を持った感覚である、足裏の大地の感触すらも、現実感を失って霞みの向こうへと消え失せかかっていた。 幸いなことに、イヤードはその事に気付くことができた。そして同時に、消え失せてゆくそれに無理矢理意識を振り向けてしがみつき、かろうじてこちら側へと引き止めていた。 その原動力は、身も凍るように純粋な恐怖だ。もしもその現実感を失ってしまえば、一体どうなるのか――それをイヤードは本能的に知っていた。 地を蹴るたびに、自分が今ここにいる事を強く認識する。 その行為は、死の恐怖に根差した切実な生への渇望の上に成り立っていた。 そしてイヤードは、辺りに乱立した人の背丈ほどのものから、小山ほどのものまである岩たちの合間を巧みに駆け抜け、掃射を受けないように逃げ続けていた。 イヤードはこの辺りの地形を熟知している。しかし、その点を差し引いても、もつれそうな足に悪戦苦闘しながら、今のところなんとか追っ手の射界から逃れ続けているのは、奇跡的と言ってよかった。
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